
パーキンソン病と腰痛
パーキンソン病の患者さんの中には腰痛を訴えるケースは多くパーキンソン病患者の半数以上が腰痛に悩んでいるとも言われています、現場で日々治療している経験からパーキンソン病自体の症状で苦しんでいるというよりもむしろ腰痛が一番の悩みだという患者さんも意外に多いと感じています。
腰は日常生活の身体の動きにとって体の動きの要の役割を果たしているため、腰の痛みによって起こる体の動作制限は全ての日常での動きを低下させてしまいます。
そういった観点からみると腰痛はパーキンソン病の4代症状に劣らず日常生活の悩みの種になっている、日常生活の質に直結する問題であると考えることができます。
パーキンソン病における腰痛は、一般の方が罹る腰痛と少々違った観点から考える必要があります。
一般的に腰痛は、長時間の同一姿勢・繰り返し行う軽作業・急激な運動・事故や転倒等の突発外力などが引き金になって発症します。
その根本原因には、過去から現在における姿勢の癖と、その姿勢の癖により引き起こされる仙腸関節機能異常があります。
ここで少し聞きなれない仙腸関節機能異常というものを説明しましょう。仙腸関節は骨盤の背中側にあり、骨盤は腸骨と仙骨から成り立っており、仙腸関節とは、骨盤の後ろ側にある、仙骨と腸骨がくっついている関節です。
この関節は、肘や肩などよく動く関節に比べ、ほとんど動きがない関節で医学的には半関節とも呼ばれています。この仙腸関節が動くのは、腰の前後屈や捻りなどで少し可動します。
近年、このほとんど動きのない仙腸関節の引っかかりが痛みを引き起こす原因として注目されており、仙腸関節の引っかかりが腰痛はじめ体の各部の痛みの根本原因であるという理論が構築されました。ちなみにこの理論に基いて行う治療法はAKA関節運動学的アプローチと言い、医師の博田先生が考案し、体系化され、現在一部の整形外科やリハビリテーション科、整体院・治療院などで取り入れられています。
仙腸関節機能異常の特徴としては、機能異常を起こしている側の仙腸関節と同じ側の筋肉に筋緊張が起こります。始めはお尻や腰の筋肉の緊張が起こり、放置しているとそれが次第に上半身では、背中・頚・肩など、下半身では股関節・膝などの筋肉に緊張を起こします。
この仙腸関節機能異常による筋緊張がある一定線を越えると体に痛みとして現れます、腰痛などはその典型的なものです。実際には、ほとんどの腰痛に仙腸関節機能異常が関係しています。
仙腸関節機能異常は、ある特定の姿勢により起こりやすくなります。その姿勢とは、重心と利き手からくるものです。
人間は意識しない限り、利き手側に重心が乗り、利き手を使うことによって上体の前傾と若干ですが上体の捻りが加わります。この上体の前傾と捻りこそが仙腸関節機能異常を最も引き起こしやすい姿勢であり、私が言う姿勢の癖により引き起こされるとはこのことを指します。
例えば、机に向かってパソコンをやっているときの姿勢は典型的なものです。右利きの場合は、椅子に座るとき右のお尻に重心が移り、画面を見るときは上体の前傾、さらにマウス操作をする際には、右手が前に少し出ます、そのとき状態は軽く左側に捻れます。このとき、右側の仙腸関節に機能異常が起こりやすくなるのです。
パソコンに限らす誰でもこの姿勢を取ったことはあるでしょう。そのため、仙腸関節機能異常はほとんどの人が持っていると思われます。痛みとして症状が現れている場合は、一定線を越えてしまっている顕在化したものであり、痛みが出ていない方でも潜在的に持っている可能性は非常に高いのです。潜在化していた仙腸関節機能異常が痛みの出現として顕在化する引き金になるのが最初に話した、長時間の同一姿勢・繰り返し行う軽作業・急激な運動・事故や転倒等の突発外力など、ということになります。
つまり仙腸関節機能異常による筋緊張に上記の4因子いずれかによる筋緊張が重なった場合に顕在化しやすいということになります。
これが一般的に言われる腰痛の原因であり、マッサージをしても一時的な効果に留まる理由は筋スパズムの根本原因となっている仙腸関節の機能異常(関節内の引っかかり)を処理できていないからであると言えます。
この一般的な腰痛の原因にパーキンソン病の場合は、パーキンソン病からくる筋固縮や姿勢反射障害等が一般的な腰痛の原因に相乗している可能性が非常に高いのです。
パーキンソン病の4大症状の一つ、姿勢反射障害で起こる特有の中腰姿勢、実はその中腰姿勢は言い換えると前傾姿勢とも言う事ができ、先ほど説明した前傾+捻りに合致します。中腰(前傾)姿勢は仙腸関節を不安定な状態にし、引っかかり(機能異常)を引き起こしやすい姿勢の代表的なものです。よく重い物を持つ時は腰を落として、と言いますが、その姿勢は仙腸関節を強固に固定する姿勢ですので腰を痛めにくい姿勢です。また、腰を曲げて手を伸ばして重い物を持ち上げるときは得てしてギックリ腰の原因にもなっていますが、その姿勢は仙腸関節に緩みを生じ引っかかり(機能異常)を誘発し、腰を痛めやすい不安定な状態となります。
またパーキンソン病には筋固縮という筋肉が硬くなってしまうという症状がありますが、その筋固縮が仙腸関節機能異常の筋緊張に相乗してしまうとより一層筋緊張は強くなり腰痛が起こりやすくなります。つまり仙腸関節機能異常の筋緊張+パーキンソン病による筋固縮がより腰痛を引き起こすリスクを高めるということです。
以上の事から要約しますとパーキンソン病の患者さんの場合、姿勢反射障害や筋固縮等のパーキンソン病特有の症状が、仙腸関節機能異常による筋緊張に相乗することで腰痛を発症するリスクが高く、一旦出現すると痛みが取れにくい、ということになります。
パーキンソン病の腰痛においては、このことを考慮して治療していく必要性があります。優先順位としては、第一に仙腸関節機能異常を改善し、そこから発生する筋緊張を処理しなければなりません。また仙腸関節機能異常を引き起こしているこれまでの日常生活での姿勢の癖(重心の偏り・前傾+捻り)も同時に改善する必要性もあります。この2つの治療だけでも腰痛が改善する可能性は高いですが、同時に頭皮針や整体により脳の血流を改善し、副交感神経を優位にすることで、パーキンソン病特有の症状を改善する事も同時進行で進めていくとより大きな効果を引き出すことが可能となります。
パーキンソン病はその特有の症状は非対称性に出現します、また姿勢においても左右どちらかに捻れが起こるような前傾捻り姿勢になるケースがほとんどです。
これは考えるに、パーキンソン病発症以前からの姿勢の癖や潜在化していた仙腸関節機能異常がパーキンソン病発症後の姿勢や症状にある程度関係しているということは経験的に確信しています。また、非常に困るのは、体の動きが悪いことが全てパーキンソン病からくるものだと言われている・思っている方に非常に多いということです。はっきり言えば、体の動きが悪いのは100%全てパーキンソン病から直接きている可能性は0%に近く、ほとんどは仙腸関節機能異常や姿勢の癖も何割かは関係しています。
実際のケースでいうと80歳代の患者さんで車椅子から立ち上がることも介助なしでは不可能で、介助付きで連続2〜30歩しか歩けない進行したパーキンソン病の場合。姿勢の癖と仙腸関節機能異常からくる筋緊張の治療を行うだけで、2ヶ月後には自力で立ち上がることが出来、歩行も連続して200歩以上歩けるようになりました。
また、あるケースでは腰が90°近く折曲がった状態で、さらに左に身体が捻れている姿勢で、すくみ足・震え・腰痛等の症状が出ている場合。これも姿勢の癖と仙腸関節機能異常からくる筋緊張を治療することで、腰痛が疲労時に出る程度になり、すくみ足・震えもほとんど消失しました。
このようにパーキンソン病自体の治療を行わなくとも、仙腸関節機能異常と姿勢の癖を改善するだけで、腰痛をはじめ、パーキンソン病特有のすくみ足・震え等の症状が改善することは決して稀ではなくよくあることです。この結果から言うと、パーキンソン病からくると言われている症状は、その全てがパーキンソン病からくるとは考えづらく、以前からの姿勢の癖や仙腸関節機能異常が関係している可能性は非常に高いということです。
長い文章になってしまいましたのでまとめます。
@前傾+利き手による上体の捻り+重心の移動
A仙腸関節機能異常
BAによる筋緊張
Cパーキンソン病特有の筋固縮と姿勢がBに相乗
D4つの因子が引き金になって痛みが出る
E痛みにより、交感神経が興奮すると血管収縮し、筋緊張も強くなる
F血流低下・消化・吸収・排泄能力低下・脳血流低下
Gパーキンソン病自体も進行する
以上私が行う治療理論からみた「パーキンソン病と腰痛」です。少々専門的で難しかったかもしれませんが、この理論を基に治療を行うだけでもパーキンソン病の腰痛や体の動きに対してかなりの部分でコントロール出来るのです。また、治療を受けるだけではなく、私の場合、ご自身で出来る自己矯正体操(1回5〜10分)も指導しており、その体操は仙腸関節機能異常や姿勢の癖を改善する目的で作られていますので、日々ご自身で取り組んでいただくことが出来ます。本音を言えばこの体操はパーキンソン病と闘っている方の重宝できる必需アイテムとなりますので全ての患者さんに修得して欲しいと切望しています。



